見出し画像

「食・コミュニティを繋ぐ景観」エディブルウェイとは?

こんにちは、松戸市とともにSDGsの普及啓発や調査研究に取り組んでいる(株)ミライノラボの学生研究員・千葉大学園芸学部2年の工藤美優です。

令和5年2月17日に松戸市内の大学生によるまつどSDGsフォーラムが行われましたが、みなさんは参加されましたか? 松戸市内の大学生が、常盤平団地エリアを持続可能かつ魅力向上策となる「アクションプラン」の発表が行われました。大学生と一緒に松戸市における持続可能なまちづくりについて考える良い機会となったと思います。

さて、今回は松戸市、特に松戸駅から千葉大学園芸学部までのエリアで活動されている「EDIBLE WAY(エディブルウェイ)」について紹介します。本プロジェクトは、SDGsの目標2「飢餓をゼロに」、目標11「住み続けられるまちづくりを」に繋がるものと考えており、今回お話を伺いました。
インタビューさせていただきましたのは、千葉大学予防医学センター特任研究員/博士(農学)の江口亜維子(えぐちあいこ)さんです。現在もエディブルウェイの代表でいらっしゃいます。

<江口亜維子さん>
・千葉大学予防医学研究センター特任研究員/博士(農学)
・エディブルウェイ代表
・千葉大学大学院園芸学研究科博士課程修了。
・大学院在学中の2016年より、当時所属していた木下勇地域計画学研究室、地域住民の協働でエディブルウェイプロジェクト開始。2020年より、松戸市民活動として地域住民と運営を継続中。2017年グッドデザイン賞受賞。

エディブルウェイとは?

家の前やお店の前など、沿道のスペースに布でできたプランターを置き、食べることができる野菜やハーブを育て、まちなかでエディブル・ランドスケープ(食べられる景観)をつくるプロジェクトが「エディブルウェイ」です。エディブル・ランドスケープとは、植栽の大部分が食べられるもの(果実や木の実、葉など)を提供する景観のことを言います。「エディブルウェイ」は、現在、地域内の57箇所で行われています。建物が多い松戸市ですが、植物の緑はとても目立ち、街を彩っています。

エディブルウェイでうまれるコミュニケーション

ーーエディブルウェイを通して、地域の中で会話が生まれていますか?

江口さん
毎日水やりに外に出た時に、通りを歩いている方とお話しすることがあるそうです。エディブルウェイのプランターを置いている方同士で、「うちも置いているのよ」と話しかけられたり、「これはなんですか」など、見知らぬ通行人の方ともお話しすることがあったりするそうです。
コロナ禍になる前までは、収穫物を持ち寄って、みんなで調理してみんなで食べるといったイベントをやっていました。お子さんがいる家族から、高齢の方も集まる多世代交流の場にもなっていました。参加者の方が「エディブルウェイの活動は、子ども向けでもないし、高齢者向けでもないし、色々な世代の人が参加できるっていうのが強みだね」と話されていましたが、「食」という誰にでも関わることができる活動によって、多世代の方が参加できているのかなと思います。コロナ禍では、地域で行事が中止になったりして、直接のコミュニケーションの場面が減りましたが、エディブルウェイの参加者の方にインタビューをしたところ、水やりなどで、外に出た時に顔を合わせた人と挨拶を交わすような日常的な小さなコミュニケーションの機会は維持されているようでした。
現在、食の活動の代わりに植物に関連するクラフトづくりの活動(スワッグや、アロマバームづくり等)をしているのですが、いろいろな世代の方が参加されて、みんなでワイワイ行っています。

(撮影:石川 小夜子)

ーーエディブルウェイの取り組みはどのようにはじまったのですか?

江口さん
私が、大学院時代に教わっていた木下勇先生(現在、大妻女子大学社会情報学部社会情報学科環境情報学専攻 教授)は、長年エディブル・ランドスケープの調査をされていて、私は、都市計画学の講義の中や、ゼミでエディブル・ランドスケープのことを教わりました。欧米では、街中のスペースでエディブル・ランドスケープを展開する動きが広がっていますが、日本ではなかなか難しいということを知りました。どうやったら日本の街中でエディブル・ランドスケープが実現できるんだろうと考えた時に、ヒントになったのが、日本に古くからある、軒先で鉢植えの植物を育てる地先園芸の文化です。個人的な活動ですが、道ゆく人も楽しめる公共的な意味を持つ営みです。地先園芸的にエディブル・ランドスケープをやれば、日本でも気軽にできると、木下先生と研究室のメンバーとJR松戸駅から松戸キャンパスまでのエリアで、一軒一軒「エディブルランド・スケープを知っていますか?」「こういうプロジェクトをやろうとしているのですが、興味ありますか?」と尋ねて、「興味あるよ」と言ってくださった方と、活動を始めました。最初は、リアカーでプランターを運んでいると「それ何?」と声をかけていただいたり、ご近所同士の口コミで「うちにも置きたい」と言っていただいたり、最初の半年で20世帯ほどの参加者に増えました。

ーーエディブルウェイにはどのような効果がありますか?

江口さん
プランターを設置してからの1年間は、隔週で、参加者の方を訪ね、設置後の変化や気がついたことなどについて聞き取り調査を実施しました。その中で、一番多かったのが、コミュニケーションの活性化でした。会話の増加や、話題の増加、収穫物のお裾分け等々。近所の人同士だけではなく、道行く知らない人との会話も増えたことがわかりました。同じロゴがついているプランターが目立ったようで「これ何?」「何を育てているの」など。参加者の方は、「知らない人ともお話しするようになったよ」と喜んでくださっていました。話題については、エディブルウェイのプロジェクト自体の話はもちろんですが、「これもう食べ頃よ」とか、「この花は何の植物なの?」とか育てている野菜についても。普段、野菜は売られているのは見るけど、野菜の花は滅多に見ないので、春菊の花ってこんななんだとか、大根のタネはこんな形なんだとか、育つ過程も話題になっていたみたいです。

(撮影:江口 亜維子)

地域には園芸の達人がいらっしゃって、植物のことや育て方については、いろいろと教えていただいて、地域の方同士も、情報を教え合うことがあるそうです。私たちが教わった土のメンテナンスの仕方は、プリントにして皆さんに配ったり、園芸の達人が土を天日干ししていると、近所の方が「ああやってやるんだ」と真似して広がっていったり。
また、「お揃いのプランターでやっているからチーム感が出た」とか、「愛着が湧きました」とか「まちづくり活動に参加している気持ちになりました」と言ってくれる方がいたりしました。
意外な発見だったのか、見守りの機能です。高齢の方が世話をしているプランターで、その世話具合でその人が元気かどうかの目印になっている方がいらっしゃいました。「このプランターがちゃんと世話されていないと心配されるから頑張ってるのよ」と言って、その方の健康のバロメーターになっていることを聞きました。
ほかには、園庭がない小規模保育所の前に置かせていただいています。園児が水やりをして、収穫して給食で食べたり、収穫したオクラの断面をスタンプにして、クラフトに使ったり、アゲハチョウの観察をするなど、子どもたちにとっても、自然観察の良い機会となっているみたいです。
課題としては、通りから見える場所に置くことを条件にしているので、方角によって日照不足だったり、害虫の発生があったりなどは多少ありますね。

ーー基本的にプランターに何を植えるかというのは個人の自由ですか?

江口さん
4-9月に夏野菜を、10-3月に冬野菜を育てるシーズンがあります。季節の初めにたねと苗の配布・交換会をしているので、その中で選んでいただいています。中には、道ゆく人に珍しい野菜を見てもらいたいと自分で珍しい野菜のたねを用意される方もいます。庭のこぼれダネで増えてきた三つ葉を移植したりしている方もいるし、基本的に自由です。食べられるものを植えてくださいという指定はありますが。

江口さんが考える未来像

ーー未来像を教えてください

江口さん
2011年の震災直後の数日、スーパーやコンビニエンスストアで食品や日用品が買えなかった経験がショックでした。自分で自分の食べるものを少しでも育てられたら安心できるなと思って、エディブル・ランドスケープに関心を持つようになりました。街の中で野菜を育てることは、毎日短時間ですが外にでるきっかけになって、体を動かすことにもなるし、人とつながることにもなって、最後は美味しく食べられることにもなり、良い相乗効果が生まれると考えています。普通の暮らしの中で自分の暮らしをより良く。小さいことですけど、より良く楽しい生活を送ることができる仕組みになるといいなと思います。
自分の家の前でできる気軽さと、マイペースにできる個人の活動でもあるけど、みんなとゆるくつながっていることがこのプロジェクトの特徴かなと。運営メンバーとは、将来、エディブルウェイの資材、タネや苗を買うことができて、収穫物をつかった飲食を提供するコミュニティカフェができたらいいねというような夢を話しています。そういう拠点ができたらまた新しいことが起こるかもしれないと思っています。

終わりに

食べられる景観を作る活動はSDGsの2番「飢餓をゼロに」11番「住み続けられるまちづくりを」に繋がっていると思いました。また、コミュニティのお話は11番「住み続けられるまちづくりを」に貢献するのではないかと思いました!
松戸を彩る植物と、地域住民を結びつけ、コミュニティを活発化させるエディブルウェイの取り組みに興味のある方はホームページに載っておりますのでお問い合わせにご連絡してみてください。
このような活動が、日本中にもっと広がっていってほしいと私は考えます!
皆さんも一緒に、松戸市における持続可能なまちづくりについて考えてみませんか?